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+09:00" dc:description="  まだここを作っていない時期に、novelist さんに投稿させてもらった小説。置き場所を作ったからあちらは撤去しないとな、と思いつつ少しのブクマが有難くて消せない罠……。  小さな思い出作りの臨帝です。タイトル通りの話。  右下の「つづき」からどうぞ。  " dc:identifier="http://abarabana.blog.shinobi.jp/Entry/40/" /> -->



 まだここを作っていない時期に、novelist さんに投稿させてもらった小説。置き場所を作ったからあちらは撤去しないとな、と思いつつ少しのブクマが有難くて消せない罠……。

 小さな思い出作りの臨帝です。タイトル通りの話。
 右下の「つづき」からどうぞ。




 





-----(恋愛ごっこ)

 

 竜ヶ峰帝人は困惑していた。切れた口の端はひりひりと痛むし、眼前の人物から目を離せない為確認は出来ないが、少し前に強い力で掴まれたシャツの胸倉は不自然に伸びている気がする。逃げて行ったガラの悪い連中が戻ってきたらどうしよう……。
 そこまで考えてその考えを捨てる。目の前の人物を見て、ヤバイと分かった上で逃げたのだったら戻ってくることなどあり得ないのだ。
 目の前の人物は、もう暗く陰り始めた風景の中であっても青空のようにさわやかな声で帝人を呼んだ。
「やあ、大丈夫かい?」
 自分を分かりやすいチンピラから助けてくれた右手のナイフが、パチンと音を立てて折り畳まれ、すっと服の中に消える。
 何故だか分からないけれど、この人からはいつも目が離せない。
 自分を助けた折原臨也を真正面から見詰めながら、何故そうであるのかを帝人はいつも考えない。
 例えるならば、この街の薄暗い路地裏を覗き見るイメージだろうか。
 誰もが足早に流れる大通りの裏に、それらはある。何も無い筈なのに、たまに血や反吐や……闇なんかに出会ったりする。圧倒的な恐ろしさに冷や汗もかけずに、つい足を止めて、薄暗がりを見つめてしまうような……。
「怪我、しちゃったかな。ごめんごめん、もっと早くに助ければよかった」
 その台詞に何時から見てたんだろう、と少し疑問を感じはしたが、とにかく助けてもらったことには感謝しなければならない。
「あの……」
「ん?」
 有難うございます。そう言おうとしたが、口を開けなくなった。臨也さんの骨ばった綺麗な指が、僕の切れた口の端に触れている。
「可愛そう。痛そうだね」
 降ってくる同情の言葉に帝人は困惑する。
 いや、触られる方が痛いので。是非その指を遠ざけて欲しいです。
 


 驕ってもらった缶コーヒーを手で転がしながら、帝人は隣に座る臨也を見ていた。
 顔の良い人だと思う。睫毛は長いし首は細いし、でも女性的というわけでもなく、つまるところ格好良い。手に持っているジュースが見たこともないおかしなパッケージであっても、妙にお似合いだから突っ込めないでいる。
 僕の手にあるのは無糖の缶コーヒーなのだが、僕は無糖が好みではない。せっかく奢ってもらったのに、中々口をつけずにいるというのはちょっと失礼かな。でも苦いんだよね…。
「……そのジュース、見たこと無いんですけど、美味しいんですか?」
「ん、まずいよ」
「……まずいのに、飲むんですか」
「消えちゃうと哀しいでしょ。一口も飲んだことが無いまま消えていかれると、あー勿体ないって思っちゃうからね。後悔の類って結構後引くし。どうで良いことをずっと覚えてるのは何だから、すぐに忘れられるように今飲んでおくって訳」
 ま、消えるって分かってるからこうやって楽しんでる訳なんだけどね。
 時折眉をしかめて本当に美味しく無さそうにジュースを飲む相手を見ながら、帝人は缶コーヒーを手の中で転がした。
「僕には……何故問答無用に無糖の缶コーヒーだったんですか?」
「君は質問ばかりだね。答えてあげるけど」
 押しつけがましい言い方だが、帝人はそれに対する嫌悪よりも興味の方が強かった。少し伏し目がちに臨也は言葉を紡ぐ。笑いながら、少し呆れて、ため息をつくみたいに。 
「……その缶コーヒーを入れてない自販機ってのは無いからね」
 見る度に思い出せばいいかなと思って。
 そう続く言葉に帝人は心当たりが無く、目を瞬いた。何の事だか分からない。分からないが、もう視線をそらせない。
 臨也が帝人を眺めながらふっと笑った。

「ねぇ、帝人君。今日は少しくらいはドキドキした?」
「え?」
「チンピラに絡まれて、俺に助けられて、缶コーヒー飲めなくて」
「え、あ、……はい……」

 帝人が素直にはい、と告げると臨也は飲み終えた缶を膝の横に置いた。
 コンと音を立てて。


「今日のこと、すぐに忘れちゃうといいね」

 
 にっこりとほほ笑む臨也を見て、帝人は辺りがだいぶ暗くなってきたことを知る。
 そろそろ帰ると伝えなけばと口を開きかけて、切れた口の端がひきつれて怪我を思い出した。今日ご飯を食べる時に大口を開けないように気をつけなければ、と考えた時、またしても口の端に指が近付く。
「帰るの? 気をつけて」
 近づくだけで、指は触れなかった。

 その時ふとどうでもいいことだけど、あのまずそうな缶ジュースが自販機のラインナップの中で生き残れば良いな、と考えた。
 缶コーヒーのことはいつか忘れしまっても、あれならきっと忘れないだろうから。

 

 

-----(恋愛ごっこ)









 

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